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3,DNA 生命は自然が作り出したもの。 人工的な機械である コンピュータに理解できる筈がない。 そう思っていたら、 生命の基本、遺伝情報はデジタルだった。

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3,DNA

生命は自然が作り出したもの。 人工的な機械である

コンピュータに理解できる筈がない。 そう思っていたら、

生命の基本、遺伝情報はデジタルだった。

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遺伝情報  メンデルMendelはエンドウマメの特徴が次の世代に遺伝する様子から、エンドウマメの性質は2つ一組でその情報を持っていて、そのうちの一方が親から子に伝わると考えた。  そして、この情報を伝える“何か”を遺伝子と呼んだ。(1865年)  その時点で遺伝子が何であるかは 不明だったが、1個体のエンドウマメ が2個ずつ遺伝子を持っていると考え ることで、遺伝現象を説明することが できる。  このようなモデルは多くの多細胞 生物に当てはまった。  最終的に遺伝子の正体が分かるのは メンデルから90年近くが過ぎた1953年 のことだった。

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遺伝子  その後、遺伝子はDNA分子によって伝えられることが分かった。遺伝子とは生物の形質を伝える遺伝情報のことを指す言葉だ。この情報がDNAの塩基の配列として保存・伝達される。一つの遺伝子はおおよそ一つのタンパク質に対応する。 DNAの情報量は2.9kbp/um

ヒト 6x109bp ,1.5GByte 長さ 2m 約30,000遺伝子

大腸菌 3x106bp 0.8MByte 長さ1mm 約5000遺伝子 実際に遺伝情報を持っているのはDNAの数%だけ。他の部分の働きは不明な部分が多いが、一部は遺伝子の発現を制御していることが分かってきた。

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DNA:核の中の酸性物質  細胞の核を抽出すると、内部には大量の酸性物質が詰まっていた。その正体は核酸(Nucleic Acid)と呼ばれる酸性の有機ポリマーで、デオキシリボースと呼ばれる糖が、リン酸のエステル結合で結びつき、長い鎖を作っている。核酸にはリン酸が多いため酸性になる。

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DNAの二重螺旋構造   DNAとはDeoxyribonucleic Acidの略称で、デオキシリボースを骨格とする核酸である。細胞内のDNAは通常、右の様な2重螺旋構造をとっていて、化学的には非常に安定である。  核酸にはDNAの他にリボースに酸素の欠落がないRNAが存在する。RNAは一重鎖構造が鎖内対合して複雑な立体構造をとる。RNAは機能的で合成量も多いが、分解もされやす。

H,C,N,O,P

P RNA-tRNA Ribozyme DNAの二重螺旋

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DNAの二重らせん構造  DNAのらせん状の紐構造を拡大すると、2本の柱の間に塩基と呼ばれる環状分子が2つ一組で向かい合った段が並んでいる。  4種の塩基のうち、AとT、CとGが相補的に対を作ることで二重螺旋になる。  塩基は環状構造にπ電子を持つため、互いに積み重なることでより安定化する。積み重なった塩基の柱を外側からリボースとリン酸の柱が締め付けている。

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DNAの大きさ  初めてDNAの構造を画像として捉えたのは大阪大学の河合知二先生で、STM(走査型トンネル顕微鏡)を用いて像を捉えた。  DNAは太さ2nmほどの非常に細長い糸に見える。  数珠の様に見えるのは、2本の柱がねじれているため。しかし、詳細な解析を行えば一塩基が解析できる。  一方、人のDNAの長さは5cmほどで、太さの2×107倍ぐらいある。太さ1mmの毛糸なら、20kmの長さである。

?長さ20kmの毛糸はどうして絡んでしまわないのだろう?

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DNAの分子構造

 DNAは、五炭糖のリボースの2位の水酸基が水素に置き換えられた、デオキシリボースの3位と5位の炭素間を、リン酸の水酸基でエステル結合した構造で、1位の水酸基に、アデニンA,グアニンG,シトシンC,チミンTの4種の塩基の内の1つが結合している。

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RNAの分子構造

 RNAは、五炭糖のリボースの3位と5位の炭素間を、リン酸の水酸基でエステル結合した構造で、1位の水酸基に、アデニンA,グアニンG,シトシンC,ウラシルUの4種の塩基の内の1つが結合している。

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DNAとRNA  特徴 DNA   RNA  

構造 デオキシリボース 塩基:AT GC  二重螺旋

リボース 塩基:AU GC  ヘアピン、星形

安定性

化学的には極めて安定 生体内であまり分解を受けない。 DNA合成・修復とバランス。

短命。 生体内ではRNaseによって容易に分解される。

機能 遺伝情報の保持、伝達 遺伝情報の伝達、タンパク合成、

酵素作用、遺伝子発現の制御

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機能的RNA  

Hammerhead Ribozyme:RNAをRNA自身が切断する自己触媒

tRNA rRNA

Telomerase:テロメアを合成する働き。

mRNAの情報をアミノ酸に翻訳し、タンパク質を合成する。 

その他、miRNAやcircularRNAなど、新たな機能的RNAが見つかっている。

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miRNA  

miRNA=micro RNAは、遺伝情報を含まない、非コーディング領域に存在する短い塩基配列で、RNAに転写後、切り出されて細胞質中に移行して遺伝子に結合し、その発現を制御する。  一方で、大型の環状RNAがmiRNAを無効にするよう働くことが分かった。 Nature Vol.495,322-324(2013)

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環状RNAの情報 動物の環状RNA(circRNA)は、その機能がまだ解明されていない謎のRNAである。circRNAを系統的に調査するために、ヒト、マウスおよび線虫のRNAの塩基配列解読およびコンピューター解析を行った結果、よく発現している安定なcircRNAが数千個検出され、それらは体の組織や発生段階に対して特異的に発現していることが多かった。 塩基配列の解析から、circRNAが重要な調節機能を担うことが示された。たとえばヒトcircRNAの1つであるCDR1as(antisense to the cerebellar degeneration-related protein 1 transcript)には、マイクロRNA(miRNA)エフェクター複合体が密に結合しており、進化的に古いmiRNAであるmiR-7に対する保存された63個の結合部位があり、それらが神経組織でmiR-7に結合する働きを持つことが示された。ゼブラフィッシュでヒトCDR1asを発現させると、miR-7のノックダウン(働きを止めてしまうこと)の場合と同様に、中脳の発生が障害されたことから、CDR1asは今までのものよりmiRNA結合能が10倍高いmiRNA阻害剤であることが分かった。このことから、circRNAが転写後調節因子の大きなグループと考えられる。circRNAの多くはエキソンの頭–尾(head-to-tail)方式のスプライシングによって形成されるため、コード塩基配列にはこれまで知られていなかった調節能があることが示唆される。

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circRNAのスプライシング

Circular RNAs: splicing’s enigma variations

Matthias W Hentze and Thomas Preiss

The EMBO Journal (2013) 32, 923 - 925

DNA配列から合成されたRNAは途中のイントロンを切り離して必要な部分のみが残り、mRNAとなる。その過程で末端同士がつなぎ合わされた環状RNAが作られる場合がある。 そのほかにも、RNA結合タンパク(RBP)との相互作用など、様々な機能が考えられる。

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DNAのメチル化 Epigenetics 遺伝子の塩基配列自体は変化しないにもかかわらず,遺伝子の発現を制御する機構がエビジェネティックスである。

DNAのシトシン(C)はメチル化されることがある。メチル化は遺伝子の発現を阻害する。またメチル化された構造が親から子に引き継がれることがあるため、遺伝子以外の遺伝要因となる。

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遺伝子の変化

個体別の変位:生殖細胞の遺伝子の変化、保存される。 ・組み替え ・突然変異(紫外線、放射線、化学物質、複製ミス) 個体中の変化:一個体の体細胞の遺伝子もいくつかの原因により変化している。 ・SNP(Single Nucleotide Polymorphism):点突然変異 ・遺伝子の削除:赤血球 ・ウィルス感染:レトロウィルスの遺伝子組み込み 体細胞の変位は子孫には伝わらないが、個人の体質を決める要素となり、病気の発症、治療などに大きく影響することが分かってきた。しかし、体細胞変位を精査する技術は現在開発中である。

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ここでちょっと ひとやすみー

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オーダーメード治療  今後は、SNP(Single Nucleotaide Polymolphysm=一塩基変異多型)解析・体細胞変異など、個人ごと、組織毎の遺伝子の違いを解析して、その人に合った、オーダーメードの治療を行う技術が進展する。  例えば抗ガン剤が個人ごとに最適に選択できれば、最小限の副作用で効果を上げることが得きる。  そのためには、高速・低価格の塩基配列読み取り技術が必要になる。

USBシークエンサー

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µTAS  µTAS=Micro Total Analysis System:微小化学分析システムは、微小流路を用いた生化学分析・検出システムの総称。

微小分析 カラム 汎用品は市販されている。

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4種の電気的泳動法

電気的作用を用いて、水溶液やゲルなどの媒質中で分子を泳動させ、物質分離を行う方法は、一般に4種に分類される。 1、電気浸透(ElectroOsmosis/ElectroOsmotic Flow)  微細なキャピラリに高電圧を印加し、内部の液を動かす。  (DNAのキャピラリ・カラムなど) 2、電気泳動(Electrophoresis)  ゲルに電圧をかけ電荷を持つ分子をクーロン力で動かす。  (タンパク質、DNAの分子サイズ分析分析) 3、等電点電気泳動(Isoelectric Focusing)  電界でゲル中にpH勾配を作り、イオンを中性点に集める。  (電気泳動と組み合わせ、二次元電気泳動、フィンガープリ

ント、フットプリントなど) 4、誘電泳動(Dielectrophoresis)  交流電界を用い分極した分子に力を加えて動かす。  (オプティカル・ツィーザー、微粒子トラッピングなど)

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キャピラリ−電気泳動  細いガラスキャピラリーに48のウェルからDNA試料を吸い上げ、泳動する間にサイズを分離する。  終端近くの測定点でレーザー光による励起でDNAの蛍光を測定する。

 ガラスキャピラリーに電圧をかけると、壁面に対し正に帯電した溶液全体は負極に移動(電気浸透流:Electroosomotic Flow)。また、負に帯電したDNAは電界からの力で負極に移動(電気泳動:Electro-phoresis)。両者の釣り合いで、分子毎に異なる速度で移動する。

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DNAシークエンシング

DNAの塩基配列  長さの違うDNAフラグメントは短い順に流出する。  異なる色の蛍光色素を付けた塩基で終端しているフラグメントを合成し、キャピラリ−に流すと長さの順に色のピークができる。4色のピークが4種の塩基に対応する。

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微小PCR装置 PCR:Polymerase Chain Reaction  Taqポリメラーゼを使うことで、温度変化(サーマルサイクル)だけでDNAの1本鎖化、合成を繰り返し、nサイクルでDNA量を2n倍に増幅する。  理論上は、一分子からでも配列分析可能なDNA試料を得ることができる。微細化により時間が短縮され、一細胞から短時間でDNAサンプルを作り出すことができる。  この技術は軍・警察のon site DNA分析にも利用されている。

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一分子の塩基配列読み取り

Professor Kawai, Osaka University, spec i f i ca l l y in t roduced the nex t g e n e r a t i o n o f D N A s e q u e n c i n g technology that utilizes gating nanopores. Two configurable nanoelectrodes enables the electr ical detect ion of single nucleotides (Figure 4).6 Electron transport through single nucleotides occurs not by changes in the ionic current flowing parallel to the nanopore but by changes in the electric current flowing between the nanogap electrodes. 阪大、河合教授らは、ナノサイズの孔にDNA1分子を通しながら、電気的に配列を読み取る技術を開発した。 M. Tsutsui, M. Taniguchi, K. Yokota and T.

Kawai, Nat. Nanotechnol., 2010, 5, 286-290.

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Ion  Protonシークエンサー  Ion Torrent社の半導体シークエンサーは、電極の付いたウェルに、それぞれ異なる試料DNAを固定。溶液中に4種の塩基を順番に導入・合成する。  RNAポリメラーゼの働きで塩基が1分子分結合するたびに、発生する水素イオンを電気的に測定。結合した塩基の種類から配列を決定する。    配列にあった塩基だけが試料DNAに結合して水素を放出するので、電流発生のタイミングで塩基を決定できる。

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細胞分離装置  細胞の集まりから必要な細胞だけを取り出す。電気力、誘電泳動力、音響波、光圧、水流などの力で細胞ごとに行き先を制御する。  現行の装置で高速な分離が可能だが、医療には使えない。今後は医療用に低価格・使い捨て化が進む。

体細胞の高速分離、遺伝子の高速解析技術がすすめば、個人毎にオーダーメードの治療法が使えるようになる。

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電気泳動による分離技術

 DNAやタンパク質など、生体高分子の分離・精製には様々な技術が使われるが、µTASに関連する技術としては、クロマトグラフィーと電気力を組み合わせた電気泳動が様々な面で利用されている。これは電気的作用が微小構造と相性が良いこと、単なる吸着や拡散に比べて高度な操作が可能となること、分離を高速化できること、などの理由がある。  電気泳動は主に以下の4種類に分類できる。

1. 電気泳動:クーロン力と粘性抵抗のバランス 2. 等電点電気泳動:水中での解離による電荷バランス 3. キャピラリ電気泳動:壁面との相互作用と粘性抵抗 4. 誘電泳動:分極の大きさ

これらの組み合わせで様々な物質分離が可能となる。

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電気泳動

1. 電気泳動(Electrophoresis)  電気泳動はアクリルアミドやアガロースの親水性ゲル中に電界を印加し、クーロン力でゲル中を移動する物質の粘性抵抗戸のバランスで大きさを分ける技術である。  DNAであれば水中では必ず負に帯電しているので、+極に向かってクーロン力が働く。その大きさは電荷量=DNAの長さに比例するが、それがゲル中を移動するときの粘性抵抗は長さに対し、一次以上次数で比例するため、大きな分子ほどゆっくりと泳動される。こうして、泳動フロントから分子サイズの小さい順に並ぶことになる。  タンパク質では電荷と形状が不均一なため、SDSで可溶化、負に帯電させて泳動する(SDS-Page)が、時にそのままの状態の電荷・形状で泳動させる(Native Page)場合もある。

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等電点電気泳動

2. 等電点電気泳動(Electro focusing)  タンパク質はアミノ酸側鎖の種類によって、正に帯電する(塩基性)場合と、負に帯電する場合(酸性)がある。正負の電荷バランスはタンパク質に固有で、それが水素イオンによってちょうど中和されるpHを等電点と呼ぶ。  解離して正負のイオンを作る塩が大量に入った溶液を含むゲルに電界を印加すると、イオンが電界で不均等に移動してゲル中にpHの勾配を作る。その勾配中ではタンパク質は帯電し、等電点の位置まで電気力に引かれて移動したところで中和されて止まる。その結果、ゲル中に等電点毎にタンパク分子が並ぶことになる。これを等電点電気泳動と呼ぶ。  タンパク質はDNAと異なり、大きさだけでは分離しきれない場合が多いので、電気泳動と等電点電気泳動を組み合わせた二次元電気泳動でスポットを分離する場合がある。

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キャピラリ電気泳動

3. キャピラリ電気泳動(Capillary electrophoresis)  微小な直径のキャピラリ中に高電界を印加すると、界面に発生した電気二重層の、溶液側の電荷が電界に引かれてキャピラリ中の溶液全体が移動する。これを電気浸透(Electroosmosis) と呼ぶ。電気浸透流中の分子は管内面との吸着・解離によって溶液の流れより遅い速度で移動する。移動速度は分子の種類によって異なり、DNAでは小さな分子ほど速く移動する。この移動速度の差によって分子を分離するのがキャピラリ電気泳動である。  キャピラリを用いることで、試料の微量化、装置の微小化、分離の高速化が可能となり、DNAのシークエンス速度が各段に高速化された。

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誘電泳動

4. 誘電泳動(Dielectrophoresis)  電気泳動では基本的に電荷をもつ分子しか動かすことはできない。それに対して電気双極子は均一電界中では正負の電荷に同じ力を受けるため動かない。しかし、不均一な電界中であれば、場所毎に電気力が違うため、電荷を持たない粒子が正味で力を受ける。この力を誘電泳動力と呼ぶ。座標をr、電界ベクトルをE(r)、双極子モーメントをmとすると、誘電泳動力Fdは で与えられる。▽は三次元の微分演算子で、この微分は電界Eと直積になっている。  分極は外液との誘電率差で正と負の誘電泳動力が発生する場合がある。  応用として、強力な光の電界でガラスビーズに正の誘電泳動力を及ぼし、トラッピングする光ピンセットがある。

Fd =m i∇E

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本日はここまでです。