5.1 疲労破壊
一定荷重を規則的に繰り返すか、
疲労破壊とは
あるいは荷重が不規則に変動する際に生じる破壊機構のこと。
◎ 繰り返し荷重によって生じる応力
降伏応力や耐力より かなり低くても疲労破壊は起こる。
静的破壊
13%
腐食・破裂等3%
遅れ破壊、応力腐食割れ 5%
熱疲労腐食疲労
転動疲労
11% 単純疲労
60%
低サイクル疲労
8%
◎ 破壊事故原因
約80~90%が疲労による。
◎ 破壊の仕方
長期間にわたって動的荷重を加えると何の前触れも無く、突然起こる。
疲労現象と疲労破面
(1)起点 …
(2)き裂の伝ぱ …
巨視的破面の特徴 …
微視的破面の特徴 …
その他、破面の特徴 …
部材の表面付近
応力集中源 (切欠、鋭角、キー溝、非金属介在物)
疲労き裂発生後、最大応力面に沿う
一対の破面はかなり滑らかで、巨視的には塑性変形はほとんど生じていない。
ビーチマーク (繰返し応力レベルの変動、環境の変動)
ストライエーション (縞状模様)
き裂の成長により断面が減少
荷重の負担ができず、延性的に破壊
破面上には、比較的粗い部分が残る。
疲労破壊の特徴
疲労破壊とその因子
時間
応力
引張
り(+
)圧
縮(-
)基本的因子
(1) 最大引張り応力
(2) 変動応力
(3) 応力の繰り返し数
十分に大きい
・ 応力集中
・ 腐食や高温などの環境
・ 残留応力
・ 冶金学的組織
・ 組み合わせ応力
・ 過大応力
◎ その他の原因
(b)両振り
σm= 0R = ‐1
引張
り(+
)圧
縮(-
)応力
時間
σm : 平均応力
σa : 応力振幅
R : 応力比
2minmax σσ
σ+
=m
2minmax σσ
σ−
=a
max
min
σ
σ=R
繰り返し応力波
σmi
σ
σma
σ
応力
時間
(a)一般的波
0
(c)片振
R = 0σm=
5.2 疲労試験と試験機
5.3 低サイクル疲労5.3.1 繰返し応力とひずみ応答
ヒステリシスループ(後述)
σa ; 高応力の値
(塑性変形の繰り返し)
極低サイクル疲労(Extremely Low Cycle Fatigue)
低サイクル疲労(Low Cycle Fatigue)
応力
振幅
σ
a
破断までの繰返し数 Nf
101 102 103 104 105 106 107
低サイクルと高サイクル
高温環境下で用いられる原動機などの設計
熱ひずみの繰り返し
・ 原子炉圧力容器
・ 蒸気タービン
疲労寿命が短い
ヒステリシスループ ・・高応力で塑性ひずみを伴う一定の負荷が繰り返される時の応力‐ひずみの関係
σa
B塑性域での負荷過程
A降伏応力
C
降伏
最初の降伏応力より低い
(バウシンガー効果)Δ
σΔεr
圧縮
D
E
Δεp
引張りひずみを加える
除荷過程
圧縮
0
図 ヒステリシスループ
ΔεT=一定で、繰返し変形を与えた時のヒステリシスの変化
σaが徐々に減少σaが徐々に増加・・ひずみ軟化現象・・ひずみ硬化現象
図 低ひずみ繰返しにおける応力幅変動
(a) 繰返し硬化
例 焼きなまし材料
(b) 繰返し軟化
例 加工硬化、析出硬化
ヒステリシスループ
静的応力ーひずみ曲線
繰返し応力-ひずみ曲線'
2'
2
n
K
=ΔεΔσ
Δσ ; 応力幅
K’ ; 繰返し強度係数
n’ ; 繰返し硬化指数
(一般に n’≒ 0.05~0.3)
繰返し数とともに変化抵抗である応力幅が変化
・ 焼きなましした材料 Δσ増加
・ 冷間加工した材料 Δσ減少
寿命の50%で ヒステリシスループの形状は落ち着く
応力
Δσ
ひずみ
Δε
繰り返し応力-ひずみ曲線
5.3.2 ひずみ幅と疲労寿命
低サイクル疲労における塑性ひずみ幅 Δεpと疲労寿命 Nfの関係
破断繰り返し数 Nf
ひず
み幅
Δ
εp
マンソンーコフィン則
10 100 1000 100000.1
1.0
5.0
Δεp(Nf)0.45=0.20
CN bfp =Δε
b,C ; 材料によって決まる定数
(多くの材料 b≒0.5)
=
f
f AA
0lnε◎
A0 ; 試験前の断面積
A ; 破断後の最小断面積
φ ; 絞り
εf ; 破断延性
◎ Nf =1/4回において、Δεp=2εf C=εf またΔεp=εfのときC=εf /2
図 低サイクル疲労における塑性ひずみ幅 と破面までの繰返し数の関係(TP35)
5.4 高サイクル疲労
5.4.1 SーN曲線と疲労寿命
疲労試験結果を評価する上で最も基本的な線図。
繰返し応力(主に応力振幅 σa)と破壊するまでの繰返し数 Nf の関係を示す。
応力集中がある場合は、 応力集中を考慮しない公称応力を適用。
疲労寿命という。通常、常用対数 log Nf をとる。
図 高サイクル疲労におけるS-N曲線
SーN曲線(高サイクル疲労と低サイクル疲労)
極低サイクル疲労(Extremely Low Cycle Fatigue)
低サイクル疲労(Low Cycle Fatigue)
高サイクル疲労(High Cycle Fatigue)
ヒステリシスループ
σa ; 高応力の値
(塑性変形の繰り返し)
弾性域内
σa ; 弾性応力とみなせる値
応力
振幅
σ
a
破断までの繰返し数 Nf
101 102 103 104 105 106 107
5.4.2 疲労過程(微視組織的様相Ⅰ)
き裂発生、初期伝ぱ過程 (き裂進展の第一段階)
試験
片表
面
繰返し応力
試験
片表
面
(Ⅰ)き裂進展の第一段階
拡大
・ アルミ合金 … き裂発生と成長が連続的
・ 鋼、チタン … 結晶粒程度の範囲を単位としたき裂
突き出し
入り込み
固執すべり帯
疲労過程(微視組織的様相Ⅱ)
結晶学的き裂伝ぱ過程 (き裂進展の第二(Ⅱa)段階)
(Ⅱa)
き裂進展の第二段階(Ⅰ)
き裂伝ぱ方向
試験
片表
面
繰返し応力
試験
片表
面
微小き裂 ⇒ 結晶粒内を伝ぱ (すべり面に沿う)
き裂による応力集中のため、き裂先端に集中的にダメージ
連続
き裂伝ぱ速度
dNda
=き裂伝ぱ速度
(a ; き裂長さ、N ; 応力繰返し数)
き裂先端の位置
粒界を越える ⇒ 遅い
結晶粒内にある ⇒ 速い
疲労過程(微視組織的様相Ⅲ)
巨視力学的き裂伝ぱ過程 (き裂進展の第二(Ⅱb)段階)
き裂伝ぱ方向
試験
片表
面
繰返し応力
試験
片表
面
(Ⅱa)(Ⅰ) (Ⅱb)
き裂進展の第二段階
結晶学的微視組織の影響
力学的因子の支配(応力拡大係数など)
(移行)
ストライエーション(縞状模様)
図.純チタン
cyclemdNda /10分の数μ=
ストライエーションの間隔 ⇒ き裂伝ぱ速度の変化に依存
疲労過程(微視組織的様相Ⅳ)
急速き裂伝ぱおよび最終破壊 (き裂進展の第二(Ⅱc)段階)
(Ⅱa)(Ⅰ) (Ⅱb)
き裂伝ぱ方向
試験
片表
面
繰返し応力
(Ⅱc)
き裂進展の第二段階
ストライエーション
急速にき裂伝ぱ (高強度・低延性材料 ⇒へき開、粒界割れを含む)
最終破壊
延性破壊
(ディンプル)
図 疲労過程の模式図
5.4.3 疲労き裂成長への破壊力学の適用
(静的破壊靭性Kcより小さい)
・ き裂伝ぱ抵抗の比較
・ 疲労き裂伝ぱ寿命の推定
き裂伝ぱの下限界
ΔKth ; 下限界応力拡大係数範囲
ΔKを漸減 ⇒ da/dN → 0き裂伝ぱの下限界
(Ⅰ) 最終破断
破断直前のΔK
(R ; 応力比 , Kfc ; 疲労破壊靭性)
( )RKK fc −= 1Δ
(Ⅲ)
応力拡大係数幅 log(ΔK)
き裂
伝ぱ
速度
lo
g(da
/dN
)
m
1
安定成長パリス(Paris)則
( )mKCdNda
Δ= …(式 5.6)
C, m ; 実験から得られる材料定数
多くの金属材料で、m = 2~7
(Ⅱ)
5.5 疲労強度に及ぼす種々の影響
5.5.1 切欠効果Ⅰ(切欠)
・ 切欠の底における応力集中
・ 破壊き裂の伝ぱ・拡大
◎ 切欠部材の疲労限度
⇒ 個々の部材の切欠へ 適用できる疲労強度データがほとんどない
幾何学的な断面急変部
孔、ネジ、キー溝、段抜き部
圧入部、傷、欠陥 など
切欠(Notch) き裂の起点
破壊
◎ 切欠部材の応力集中の度合い
⇒ 有限要素法 など
疲労強度低下
凹凸
切欠効果Ⅱ(切欠材の疲労限度)
疲労
限度
σw
1/σw
0, σ
w2/σ
w0
図 無次元化した疲労強さ、き裂強さと応力集中係数
の関係
切欠材の疲労限度の表現
⇒ 最小断面部の公称応力を使用
・ 引張の時最小断面積
荷重
・ 曲げの時係数最小断面に対する断面
曲げモーメント
① 疲れ強さ σw1
平滑材(切欠なし)と同様、 巨視的き裂が発生しない限界応力
② き裂強さ σw2
停留き裂が発生する時の、 破断限界の応力
切欠材の疲労限度 (2つある)
(き裂が発生しても試験片が破断しない)
応力集中係数 Kt
4
0.4
0.6
0.8
1.0
0.2
1 2 3
0
停留き裂
破断
分岐点
非破断、き裂無し
σw2
σw1
1
切欠効果Ⅲ(切欠係数 Kf)
分岐点について
材料に固有な切欠半径 ρ0に依存
① 疲れ強さ σw1
ρ>ρ0 ; 停留き裂は発生しない
② き裂強さ σw2
ρ<ρ0 ; 停留き裂が発生する
切欠によって 疲労限度がどれくらい低下したかを表現
平滑材の疲労限度 σw0
1
01
w
wfK
σ
σ=
2
02
w
wfK
σ
σ=,
切欠係数 Kf
応力集中係数 Kt
4
0.4
0.6
0.8
1.0
0.2
1 2 3
0
停留き裂
破断
分岐点
非破断、き裂無し
σw2
σw1
疲労
限度
σw
1/σw
0, σ
w2/σ
w0
図 無次元化した疲労強さ、き裂強さと応力 集中係数 の関係
5.5.2 寸法効果ρ1
回転曲げ
ρ2
回転曲げ 寸法 大 ⇒ 強度 低下
材料は同じであるとすると
寸法効果 (通常)
① 応力勾配
主として2つの要因あり
試験片を相似的に小さくする
⇒ 1/ρ 大きくなる
⇒21
, f
t
f
t
KK
KK
増大する
② 危険にさらされる表面積(統計学的因子)
⇒ 微視的欠陥が存在する確率 大
危険断面が広い
⇒ 疲労強度の低下
⇒ Kt は同じだから、Kf1、Kf2 は小さくなる
2
02
1
01 ,
w
wf
w
wf KK
σ
σ
σ
σ== より、⇒ σw1、σw2は、大きくなる
5.5.3 平均応力の影響Ⅰ(疲労限度線図①)
疲労限度線図
領域 ADEC ;安全に使用可能領域
45°
両振り 引張り・圧縮
45°
片振り 引張り・圧縮
0
応力
振幅
平均応力
図 疲労限度線図
σT
σw
0
平均応力が作用する場合の疲労限度
A ; 平滑材の疲労限度 σw0
B ; 真破断応力 σT
σm
σa
GE
D
-σS
σS
σS
CA
B
最大 ・ 最小変動応力がこの範囲を越えると
過度の塑性変形を生じる
(三角形 ABC、 σS ; 降伏応力
平均応力・残留応力の影響Ⅱ(疲労限度線図②)
平均応力の影響
σw
0
σB
修正グッドマン線図
n = 1 … 直線
ゲルバー線
n = 2 … 放物線
σS
ゾーダーベルク線
n = 1 … σSに置き換えた0
疲労
限度
σa
平均応力 ; σm
疲労限度
−=
n
B
mwa
σ
σσσ 10
σB ; 引張り強さ
σm ; 平均応力
σw0 ; 平滑材の疲労限度
図 広く使用される疲労限度線図
残留応力の影響
・ 圧縮残留応力 ⇔ 圧縮の平均応力が作用する
・ 引張り残留応力 ⇔ 引張りの平均応力が作用するに対応する
5.6 疲労強度設計(線形累積損傷則Ⅰ)
変動応力下における疲労寿命の推定①
応力 σ1 における疲労寿命 Nf = N1
応力 σ2 における疲労寿命 Nf = N2
応力繰返しの途中で応力振幅を変化させる
時間
応力
σ1σ2
(a)
時間
応力
σ1σ2
(b)
図 2段2重重複応力
(D;累積破壊損傷値)
12
2
1
1 =+=Nn
NnD … (式 5.10)
疲労損傷
σ1をn1(n1<N1)回繰返した後、
σ2 をn2回繰返すとした時
線形累積損傷則(マイナー則)
線形累積損傷則Ⅱ
変動応力下における疲労寿命の推定②
12
2
1
1 =+=Nn
NnD … (式 5.10)
σ1をn1(n1<N1)回繰返した後、
σ2 をn2回繰返すとした時
線形累積損傷則(マイナー則)
(1 に達すると破壊する)
D<1 D>1
時間
応力
σ1σ2
(a)
図 2段2重重複応力
(a)繰返し応力
しかし実際は…
高い ⇒ 低い
時間
応力
σ1σ2
(b)
(b)繰返し応力
低い ⇒ 高い
(条件によっては、D=0.1~20 ⇒ 修正が必要)