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1 無機化学Ⅰa 2016年9月~2017年2月 10月13日 第2回 1.原子構造と周期律 担当教員: 1回~8回 福井大学学術研究院工学系部門生物応用化学分野 前田史郎 E-mail[email protected] 9回~16回 福井大学産学官連携本部 米沢 教科書:基礎無機化学 下井 守著、東京化学同人 この授業の前半ではカードリーダーによる出席を取ります。 各自学生 証をカードリーダーに通してから、着席すること。学生証を忘れた人は, 当日の授業終了時までに申し出た人だけ出席扱いとします。後日出席 の申し出は受け付けません。 休講通知:来週1020日(木)は学会参加のため休講とします。補講 については後で掲示します。 1.原子構造と周期律 1・1 原子核と電子 1897電子 トムソン 1911原子核 ラザフォード 1918陽子 ラザフォード 1932中性子 チャドウィック 素粒子 質量/kg 質量(電子に 電荷/C 電荷(陽子の電荷に 対する相対質量) 対する相対比) 1.6726×10 -27 1836 +1.602×10 -19 +1 中性子 1.6750×10 -27 1839 0 0 9.1094×10 -31 1 -1.602×10 -19 -1 表1・1 陽子、中性子、電子の質量と電荷 「真空放電,陰極線」 ガラス管の中に1対の電極を入れ, その間に数 kVの高電圧をかけ る.管内の気体が低圧 (0.1 気圧以下) になると放電が起こる. これを 真空放電という. このとき管内には下図のように縞模様が見られる. 圧力が 0.000001 (10 -6 )気圧くらいになると, 縞模様が消えて, 管内 が暗くなるが, 放電が止まったわけではなく, 電流は依然として流れて いる.つまり電極間に何かが流れていることになる. 電子の発見 http://www2.kutl.kyushu-u.ac.jp/seminar/MicroWorld/MicroWorld.html(九州大学名誉教授 高田健次郎) 「ミクロの世界」-その1,その2- この放電管内を流れている何物かが陰極線と呼ばれるものである. この陰極線をつくる装置を, その発明者クルックス(イギリス: 1832- 1919)にちなんで, クルックス管という. 陰極線の性質を調べるため, 下図のように, クルックス管の中に十 字の板を置き, 管の反対側に蛍光物質のスクリーンを張っておくと, その上に影ができる. このことから, 陰極線は陰極から陽極へ向かっ て発射され, 直進する性質があることが分かった.

02 13OCT2016é å¸ è³ æacbio2.acbio.u-fukui.ac.jp/.../IC/2016/02_13OCT2017.pdfñ H G H >'Fø ) / N Ê > pFþ7g Ê XFø p ö Ê XF÷ N Ê >Fþ'8®FÜ ô FåG F¸FãG G" >'FøFÔFÖF¹

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無機化学Ⅰa2016年9月~2017年2月

10月13日 第2回

1.原子構造と周期律

担当教員:

1回~8回

福井大学学術研究院工学系部門生物応用化学分野

前田史郎

E-mail:[email protected]

9回~16回

福井大学産学官連携本部

米沢 晋

教科書:基礎無機化学 下井 守著、東京化学同人

この授業の前半ではカードリーダーによる出席を取ります。 各自学生証をカードリーダーに通してから、着席すること。学生証を忘れた人は,当日の授業終了時までに申し出た人だけ出席扱いとします。後日出席の申し出は受け付けません。

休講通知:来週10月20日(木)は学会参加のため休講とします。補講については後で掲示します。

1.原子構造と周期律1・1 原子核と電子

1897年 電子 トムソン1911年 原子核 ラザフォード1918年 陽子 ラザフォード1932年 中性子 チャドウィック

素粒子 質量/kg 質量(電子に 電荷/C 電荷(陽子の電荷に

対する相対質量) 対する相対比)

陽 子 1.6726×10-27 1836 +1.602×10-19 +1

中性子 1.6750×10-27 1839 0 0

電 子 9.1094×10-31 1 -1.602×10-19 -1

表1・1 陽子、中性子、電子の質量と電荷

「真空放電,陰極線」

ガラス管の中に1対の電極を入れ, その間に数 kVの高電圧をかけ

る.管内の気体が低圧 (0.1 気圧以下) になると放電が起こる. これを

真空放電という. このとき管内には下図のように縞模様が見られる.

圧力が 0.000001 (10-6)気圧くらいになると, 縞模様が消えて, 管内

が暗くなるが, 放電が止まったわけではなく, 電流は依然として流れて

いる.つまり電極間に何かが流れていることになる.

電子の発見(http://www2.kutl.kyushu-u.ac.jp/seminar/MicroWorld/MicroWorld.html)

(九州大学名誉教授 高田健次郎)「ミクロの世界」-その1,その2- この放電管内を流れている何物かが陰極線と呼ばれるものである.

この陰極線をつくる装置を, その発明者クルックス(イギリス: 1832-

1919)にちなんで, クルックス管という.

陰極線の性質を調べるため, 下図のように, クルックス管の中に十

字の板を置き, 管の反対側に蛍光物質のスクリーンを張っておくと,

その上に影ができる. このことから, 陰極線は陰極から陽極へ向かっ

て発射され, 直進する性質があることが分かった.

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「陰極線の正体」

陰極線の正体が何であるか, J.J. トムソン (イギリス: 1856 ~1940)

によって研究された(1897). J.J. トムソンが用いた実験装置の概要は

下図のように,基本的にはクルックス管と同じ原理である.トムソンは,

陰極から発射される陰極線はマイナスの電荷を帯びた同一粒子の集

まり (粒子の束) ではないか, と推定した.

陰極から出たこの「粒子」は

陽極に引っ張られて加速し,

陽極の中央に開けられた孔を

通って直進し, 1対の電極板

(P1とP2) の間を通る.

電極板P1とP2に間に電圧がかかっていなければ, 「粒子」はそのまま

直進し, 蛍光物質を塗布したスクリーンSにあたって中心点に 小さなス

ポットを作る.上側の電極板P1がマイナス, 下側の電極板P2がプラス

になるように電圧をかけると, 「粒子」は下に曲げられて, スポットは下

方へ動く. しかし, スポットは大きく広がったり, ボケたりはしない.陰極

線がマイナスの電荷を持ち, 同一粒子からなるという トムソンの推定

は正しかった.

電極板に電圧がかかっていないとき 電極板に電圧がかかっているとき

「陰極線の比電荷」

トムソンは 陰極線の実験装置で, 陰極線の中の「粒子」 の比電荷

e/m を測定した (e は 「粒子」の電荷, m は質量) .電極板間に電場

を加えることによって陰極線は下に曲がる(図A).そこで,図Bのよう

に,さらに磁場を加えることによって,陰極線を上方に曲げて,電場

がかかっていないときにスポットができる中心点に到達するようにし

た.

電場の効果 磁場の効果

電場と磁場の効果が相殺する条件から比電荷e/mを求めることがで

きる.トムソン は, 陰極線中の「粒子」 の比電荷を測定し, e/m =

1.76 x 1011 C/kg という値を得た.さまざまな条件のもとで, いつもほ

ぼ一定の比電荷が得られることから, 陰極線は同一粒子の集まりで

あることが分かった.

「陰極線の本性, 電子の発見」

上で得られた陰極線中の「粒子」の比電荷の測定値を,ファラデー

の電気分解の法則から求められた水素イオンの比電荷と比べてみ

る.水素イオンの比電荷は約 9.65 x 107 C/kg である.

(陰極線の比電荷(e/m)) ÷ (水素イオンの比電荷)

= (1.76 x 1011) ÷ (9.65 x 107) ≒ 1800

となる.水素イオンの原子量はほぼ1であるから,陰極線中の

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「粒子」の質量が極めて軽く水素原子に比べて約 1/1800 であるか, あ

るいは陰極線の「粒子」が水素イオンより1800 倍も多くの荷電を運ぶこ

とができることを意味する.J.J. トムソンは, 後者はありそうにもないので,

前者の考えを取り, 陰極線の「粒子」は 最も軽い元素である水素より, さ

らに約 1/1800 軽い微小な粒子であると考え, これを電子 (electron)と

名付けた.

「電子は原子の共通の構成要素」

さまざまの実験の結果, 陰極線の性質は放電管の中のガスの種類

によらないことが分かった. また, 金属を2000℃近くまで熱すると, おび

ただしい数の電子が放出されることも分かった. これは熱電子と呼ばれ

ている.リチャードソン (イギリス: 1879-1959) は この熱電子の詳しい研

究をして, 原子の中の電子が高熱によって 激しく運動して原子から飛び

出してくるのだと考え, 電子が全ての原子に共通の構成要素の1つであ

ることを確かめた.

http://www2.kutl.kyushu-u.ac.jp/seminar/MicroWorld/MicroWorld.html

(九州大学名誉教授 高田健次郎)

「ミクロの世界」-その1,その2-

原子の中に電子が存在することが分かった.しかし,原子の構

造については,トムソンらのプディングモデルか,ラザフォード・長

岡半太郎らの惑星モデルのどちらが正しいのかという議論があっ

たが,ラザフォードの散乱実験の結果,惑星モデルが正しいことが

証明された.

ラザフォードの実験

α粒子(ヘリウム原子核He2+)を薄い金箔に照射すると,ほとんどは

真っ直ぐ進むが,直角あるいはそれ以上の角度に散乱されるα粒子も

あることが分かった.

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ラザフォードモデルによる説明

ラザフォードは,散乱実験の結果から,原子核は原子の大きさと比べると非常に小さいと結論した.原子核の大きさを10セント硬貨の厚さだとすると,原子の大きさはフットボール場の広さくらいの大きさである.つまり,原子はほとんど空の空間である.

原子モデルの発展

トムソンのプディングモデル

ラザフォードの惑星モデル

ボーアの量子論モデル Na原子のボーアモデル

(1)ラザフォードモデルでは,原子核からの半径rの値を規定する条件がないので任意の値を取ることができる.

(2)古典電磁気学にしたがうと電子は電磁波を放射しなが

らエネルギーを失って行き原子核に落ち込んでしまうはずである.原子が安定に存在できることを保証してない.

ラザフォードの惑星型モデルとボーアモデルは同じように見えるが,どこが違うのか.

ボーアは,プランクの量子仮説にしたがって,次の(1)量子条件,(2)振動数条件,(3)定常状態の仮定,を取り入れた.

(1)電子の角運動量L=mvrはプランク定数hのn/2p倍でなければならない.

(2)エネルギーEmの軌道からEnの軌道(Em>En)へ遷移する際にエネ

ルギー差と同じエネルギーh を持つ振動数νの電磁波を放出する.

p2nhmvr

nm EEh

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1・2 核種と同位体

原子核中の陽子数と中性子数で原子核の種類が決定され、これ

を核種という。

同じ数の陽子を持つ複数の核種をまとめて元素という。原子核の

陽子数を原子番号Zという。陽子数Zと中性子数Nの和で核種の質

量を指定でき、これを質量数Aという。

A=Z+N

核種

同一の元素で異なる質量数を持つ核種を同位体という。元素の同

位体は、安定同位体と放射性同位体に分類できる。

𝐸 𝐻, 𝐻, 𝐻水素の同位体:

原子量

元素の相対的質量を用いて原子量を定義する。12Cの原子1個の質量の1/12を原子質量単位(atomic mass unit, 1.660 538 86×10-27kg,u)という。

12C 12 u13C 13.003 35 u

天然の炭素は12Cと13Cの混合物であるため、その同位体比によって炭素の平均相対質量は12.011となる。これを炭素の原子量という。

質量欠損

原子の質量は、構成する中性子、陽子、電子の質量の和よりも小さい。この質量差を質量欠損Δmという。

2個の陽子、2個の中性子、2個の電子の質量の和6.697×10-27kg

4Heの質量6.646×10-27kg

質量欠損Δm0.051×10-27kg

質量欠損は核を形成する際の結合エネルギーとして放出される。

質量Mの原子核がZ個の陽子とN個の中性子から成っていると

する。陽子と中性子の質量をMp、Mn、原子核の質量をMとすると、

質量欠損Δmは常に正である(Δm>0)。

Δm=Z・Mp+N・Mn-M

質量mとエネルギーΔEとの間には

E=mc2 cは光速度

の関係がある。すなわち、ばらばらに存在する陽子と中性子が原

子核になるときΔmに相当する E=Δmc2のエネルギーを放出し、

核子はこのエネルギーによって結合し原子核を形成する。これを

原子核の結合エネルギーという。Eを質量数Aで除したE/Aは核

子一個当りの平均結合エネルギーとなる。

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図1・1 核子あたりの質量欠損( は安定核種、○は放射性核種を示す) 核子1つ当たりの質量欠損は56Feが最大であり、最も安定な核種である。

56Fe

図1・2 安定核種の陽子数Zと中性子数Nの関係。直線はZ=Nを表す。

①原子番号が大きくなると、中性子数が陽子数より多くなる。

②原子番号が偶数のものは多くの同位体を持つが、奇数のものは同位体の数が少ない。

③中性子数が偶数の核種の方が奇数の核種より多い。

原子核を形成する力は核力とよばれるが、原子核の安定化に中性子が欠かせないことが分かる。

23

放射性壊変には,壊変,壊変,壊変の

3種類があり,それぞれ線( 粒子), 線

(電子線),線(波長の短い電磁波)を放出

する.

粒子は,ヘリウムの原子核であり,陽子

2つと中性子2つとからなる重粒子である.

[高田健次郎九大名誉教授 ミクロの世界 - その1 - (原子の世界の謎) ]

http://www2.kutl.kyushu-u.ac.jp/seminar/MicroWorld2/2Part1/2P17/alpha_decay.htm

1.3 放射性核種と放射性壊変(崩壊)

24

(1)壊変(崩壊)

質量数Aが大きい核種の多くのものは過剰の質量を粒子の形

で放射しようとする傾向がある。

放射性核種Aが放射性壊変をして核種Bに変化したとき、Aを親核種、Bを娘核種という。

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(2) β壊変

陽子数Zに比べて中性子数Nが過大な核では、原子核内で中性

子nが陽子pに変わり、それに伴い電子e-とニュートリノνが核外に

放射される。

n→p+e-+ν

例:3H、14C、32P、40K

C→ N+e-+

(3) γ壊変

原子核が励起状態から基底状態へ遷移するときに、エネル

ギーをγ粒子(光子)として放射する。α壊変、β壊変においても、

多くの場合親核種からの遷移は娘核種の基底状態とともに励起

状態へも起こる。したがってαおよびβ壊変でも同時にγ粒子の放

射があることが普通である。

励起状態がしばらく存続し核異性体として分離できることがある。

核異性体がより安定な状態へ変わることを核異性体転移(IT)と

いう。

核異性体がγ粒子放射の代わりに壊変のエネルギーを軌道電

子に与えてこの電子が放射されることがある。このことを内部転

換といい、放射される電子を内部転換電子という。

壊変 放出されるもの Z N A

壊変 粒子 Z-2 N-2 A-4

壊変 電子 Z+1 N-1 A

壊変 電磁波 Z N A

放射性壊変の速度放射性壊変はランダムに起こる現象であって、特定の原子に注

目するときそれがいつ壊変するかは予言できず、ただある時間間隔Δtに壊変する確率pを知り得るのみである。多数(N個)の原子があった場合にはΔtに壊変する原子数-ΔNは、

-ΔN = Npと期待できる。Δtが小であればpはΔtに比例すると考えられる。比例定数をλとして、

p = λΔt.したがって、

-ΔN = Np = NλΔtΔN/Δt = -λN.

Δtを十分小さいとすると、

放射性壊変の速度は存在する原子の数のみに比例する。比例定数λを壊変定数という。

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減少の速度が、常にそのときの量に比例する場合、減少の過程は必ず指数関数となる。放射壊変はランダムに起こる現象であって、放射壊変の速度は存在する原子数のみに比例するから、比例定数をλとして、

となる。λを壊変定数という。積分すると、log N = -λt+C.

初期条件をt=0のときN = N0とするとlog N0 = C.log (N/N0) = -λt

N = N0exp(-λt)指数関数の性質として、ある時間にNだったのがN/nに減少す

るのに要する時間間隔はNによらず常に等しい。特に半分になるのに要する時間Tを半減期という。

半減期

放射性壊変系列

放射性壊変して生成した核種が不安定な核種で、さらに壊変す

る場合がある。

天然に存在する232Th、235U、238Uはα壊変とβ壊変を繰り返して、

最終的にそれぞれ、208Pb、207Pb、206Pbになる。それぞれの壊変で

できる核種の質量数は4n、4n+3、4n+2になり、それぞれ、トリウム

系列、アクチニウム系列、ウラン系列と呼ばれる。

図1.3 放射性壊変系列

908886

8482

81 83

89

質量数A 原子番号Z

崩壊 A-4 Z-2

崩壊 A Z+1

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9

92

91

908886

89878583

8482

81

質量数A 原子番号Z

崩壊 A-4 Z-2

崩壊 A Z+1

929088

86

8482

81

80

質量数A 原子番号Z

崩壊 A-4 Z-2

崩壊 A Z+1

原子核反応

原子核とほかの粒子との衝突によって起こる現象を核反応という。

特に、原子核の転換を伴う場合をいう。

A:標的核

A+a→B+b B:生成核

a:入射粒子

A(a,b)B b:放出粒子

反応の前後では、

(1)電荷の和は一定。

(2)粒子の総数は一定。ただし、陽子、中性子のそれぞれの数は、

その核反応に中間子が関与している場合は変わることもある。

核反応の例

(1)14N+4He→17O+1H 14N(α,p)17O

1919年ラザフォードが発見した反応で、初めて元素を人工変

換した。

(2)9Be+4He→12C+1n 9Be(α,n)12C

1932年チャドウィックが中性子を発見した反応である。

(3)27Al+4He→30P+1n 27Al(α,n)30P30P→30Si

1934年F.ジョリオとI.ジョリオ=キュリーが発見した反応であり、初

めて人工放射性核種をつくった。

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古典力学的

惑星モデル

(ラザフォード,1911)

ボーアモデル

(ボーア,1913)量子力学的

波動力学モデル

量子論

(プランク,1900)

物質波(ド・ブロイ,1924)

量子力学的波動方程式

(シュレディンガー,1926)

黒体放射

原子スペクトル

熱容量

電子線回折

(デヴィソン・ガーマー, 1928)

量子力学的原子モデルへの発展

1・5 ボーアの水素原子モデル

38

原子モデルの発展

トムソンのプディングモデル

ラザフォードの惑星モデル

ボーアの前期量子論モデル

1904年 1911年 1913年

Na原子のボーアモデル

(1)ラザフォードモデルでは,原子核からの半径rの値を規定する条件がないので任意の値を取ることができる.

(2)古典電磁気学にしたがうと電子は電磁波を放射しなが

らエネルギーを失って行き原子核に落ち込んでしまうはずである.原子が安定に存在できることを保証してない.

ラザフォードの惑星型モデルとボーアモデルは同じように見えるが,どこが違うのか.

ボーアは,プランクの量子仮説にしたがって,2つの条件,(1)量子条件,(2)振動数条件,(3)定常状態の仮定,を取り入れた.

(1)電子の角運動量L=mvrはプランク定数hのn/2p倍でなければならない.

(2)エネルギーEmの軌道からEnの軌道(Em>En)へ遷移する際にエネ

ルギー差と同じエネルギーh を持つ振動数νの電磁波を放出する.

p2nhmvrL

nm EEh

n=1,2,3,…

40

1・6 水素の波動関数

1926年に,オーストリアの物理学者シュレディンガーは,任意の系

の波動関数を求めるための方程式を提出した.エネルギーE を持って,

1次元で運動している質量 mの粒子に対する,時間に依存しないシュ

レディンガー方程式は次のとおりである.

ExVxm 2

22

d

d

2

ここで,V(x)はポテンシャルエネルギーである.はエイチバーあるいは

エイチクロスと読み,プランク定数を2pで割ったものである. 物理学

では振動数ではなく,角振動数(オメガ)を良く用いるが, =2pであるから,E=h= である.

Erwin Schrödinger

(1887.8.12 -

1961.1.4)

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41

一般的な波動の式(1)は古典的波動方程式(2)を満たす.

t

xAtxAtx

p

p

2sin2

sin v (1)

(2)

(1)式を,(2)式の左右両辺に代入して等しいことを示せば良い.

txaAtxAtx vv

sin

2sin

p

(3) とする.

右辺)左辺

(右辺)=

(左辺)=

()(

sinsin1),(1

sin),(

22

22

2

2

22

2

txaAatxaAat

tx

txaAax

tx

vvvvv

v

式(1)は古典的波動方程式(2)を満たす.

2

2

22

2 ),(1),(

t

tx

x

tx

v

波動方程式

42

シュレディンガーは、古典力学の波動方程式に、ド・ブロイの物質波の

概念を持ち込んで量子力学的波動方程式であるシュレディンガー方程

式を導いた。

ExVxm 2

22

d

d

22

2

22

2 1

tx

v

p

h

ド・ブロイの式

古典力学的

波動方程式

量子力学的

シュレディンガー波動方程式

(簡単のために1次元の波動方程式を示してある)

263

43

txAtx vp2

sin

),(),(ˆ

),(),(2

),(),(),(

2

),(

),(2

),(

2

),(),(2

),(22

sin2),(

2

22

2

22

2

2

22

22

22

2

2

txEtx

txEtxxVxm

txEtxxVx

tx

m

txxVE

txm

p

x

tx

m

txp

txh

p

txtxAx

tx

p

p

p

p

H

v

一般的な波動関数

xで2回微分する

ド・ブロイの式

を代入するp

h

全エネルギーEは

xVm

pE

2

2

時間に依存しない

シュレディンガー方程式

44

原子オービタルとそのエネルギー

(a)エネルギー準位

原子オービタルは原子内の電子に対する1電子波動関数である.

水素型原子オービタルは,n,l,ml という3つの量子数で定義される.

主量子数:

角運動量量子数(方位量子数):

磁気量子数:

エネルギー:

3,2,1n

l,l,,l,lml 11

1,,2,1,0 nl

2220

2

42

32 n

eZEn p

En

E1

E2

E3

0 E∞=0 エネルギーは主量子数nだけで決まっている.2sと2pオービタルのエネルギーは同じである.3s,3p,3dオービタルでも同様である(多電子原子ではこれらのエネルギーは同じではない).

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12

45

,,, ,, mlln YrRr

2

20

00

2,,,

4,

2

)()(

ema

a

Zr

eLn

NrR

e

nln

llnln

p

     

cos,,ll m

lim

ml PNeY

水素型原子オービタルの1電子波動関数は,

cosmJP :ルジャンドル陪多項式

lnL , :ラゲール陪多項式

:球面調和関数

:動径波動関数

(1)角度部分

と の関数

(2)動径部分

r の関数

46

p

p

p

p

p

p

i

i

i

e

e

e

2221

21

221

21

21

21

sin32

1522

sincos8

1512

1cos316

502

sin8

311

cos4

301

4

100

     

    

      

    

      

      

l ml Ylm

球面調和関数 Ylm()

mmlllmml YY ''

2

0 0

*'' ddsin

p p

球面調和関数の規格化と直交性

ここで,クロネッカーのδ関数は,

ll

llll

'

'

1

0'    

s オービタル

p オービタル

p オービタル

47

第4の量子数であるスピン量子数 ms は である.

水素型原子の中の電子の状態を指定するためには,4つの量子数,

つまり, n , l , ml , ms の値を与えることが必要である.

また,電子のオービタル角運動量の大きさは であり,

その任意の軸上の成分は である.すなわち, mlは角運動量

のz成分の値を決める量子数である.座標軸は空間に固定されてい

るわけではない.電場や磁場をかけたときに自動的に空間軸が決

まり,それをz軸とする.つまり, mlは電場や磁場が原子にかかった

ときに重要な働きをする量子数である.

2

1

1ll

lm

48

イオン化エネルギー

元素のイオン化エネルギーI は,その元素の原子の基底状態,すなわ

ち最低エネルギー状態から電子を1個取り除くのに必要な最小のエネ

ルギーである.

水素型原子のエネルギーは,量子数 nだけに依存し,次式で表される.

水素原子では,Z = 1であるから,n = 1 のときの最低エネルギーは,

したがって,電子を取り除くのに必要なイオン化エネルギー I は,

Hn hcRn

Z

n

eZE

2

2

2220

2

42

32

p

HhcRE 1

HhcRI

338

RH:リュードベリ定数

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13

49

水素原子のエネルギー準位.

準位の位置は,プロトンと電子が無限遠に

離れて静止している状態を基準にした,相

対的なものである.

イオン化エネルギー

古典的に許されるエネルギーは連続している

338

電子が陽子(水素原子核)から無限遠に離れたとき(全く相互作用がないとき)のエネルギーをゼロとする.H→H++e-

水素原子Hのときが最もエネルギーが低い.

HhcRI

図1・16 第1イオン化エネルギー

51

殻と副殻(shell and subshell)

nが等しいオービタルは1つの副殻を作る.

n=1, 2, 3, 4,…

K L M N

nが同じで,lの値が異なるオービタルは,その殻の副殻を形成する.

l=0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, …

s p d f g h i

s,p,d,fの記号は,それぞれスペクトルの特徴を表わす英単語のイニシャルから取られており,順番に意味はない。

s ←sharp, p←principal, d←diffuse, f←fundamental

339

K

L

M

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図1・7 s、p、d軌道の角度依存性

図1・8 原子軌道の電子密度(電子雲)(p軌道、d軌道の下付文字0は磁気量子数mを表している)

1s

3p

3s2s

2p

3d

ノード ノード

図1・9 1s、2s、2p軌道の動径分布関数

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10月13日 学生番号 氏名

(1)原子が、質量が小さく負電荷をもつ電子と、小さくて質量の大きな正電荷をもつ原子核から構成されることがどのような実験結果から導かれたか説明しなさい。

(2)本日の授業について、疑問、質問、意見等を書いてください。